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おかやま設計室.. 滋賀県大津市の建築家・建築設計事務所

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くらしジャーナル

Journal
くらしジャーナル
米田様邸

下鴨こめじるしの家

初対面での「家族訪問」に好印象。ありのままの暮らしを見てもらえた。

住まいとフォトスタジオをひとつにした「家」を持ちたい。米田さん夫婦がそう考えはじめたのは、2017年のこと。借家暮らしではなく、自分の好きなようにできる場所が欲しかった。
そうして探すうち、おかやま設計室のウェブサイトにたどり着く。作風から気が合いそうな印象を受けた。なにより「シンプルにつくって、自分らしく暮らす」というコピーに惹かれた。「押しつける感じがなくていいなと。ぼくたちも奇をてらった家をつくりたいわけじゃないので」
さっそく連絡を取り、当時住んでいた山科の家に、息子を連れた岡山ファミリーが訪れる。6年間暮らしたこの家は平屋の一戸建て。足を踏み入れてすぐに、愛着を持って暮らしているのが伝わってきた。「最初からすごくフィリーングが合ったんですよね。ご夫婦で設計されるので、妻の意見を輝子さんに聞いてもらえるのもいい」。夫の達生さんが初対面の印象をそう振り返ると、妻の明菜さんも「最初にお子さんを連れて来られたのが、もう最高だなと(笑)。生活感も近い感じがして。うちの子と一緒に遊んだり、テンションが上がりました」と語る。
これで一気に距離が近づいた。

まずは土地と物件探し。見つかったのは築45年、昭和の面影を濃く残す一軒家で、1階は3部屋に分けられ、細かく仕切られた個室中心の間取りは光が届かず、どんより暗い印象。急な勾配で2階へとつながる階段があった。

【以前の住まい】
以前暮らしていた平屋。さりげない佇まいの 内側に、丁寧で心豊かな暮らしが感じられた

【米田さんご家族と岡山夫婦】
米田さん宅を訪れたのは奇しくも平成最後の日、2019年4月30日。なんだか運命を感じる出会い。
以来、友人のようなおつあいが続 いている

 

日常と非日常がたおやかに交差する暮らしとともにある仕事場。

達生さんが希望したのは「撮影スタジオとして使える大きなスペースの確保」と、「友人の建具屋さんに玄関や室内の一部をつくらせて欲しい」ということ。これまで「こめじるし写真館」として活動していたが、屋内撮影のできるスタジオが欲しかった。妻のリクエストは「使いやすい生活動線と温かい家」。以前の住まいは動線が使いづらいうえ、古い日本家屋のため断熱性が低く、場所による寒暖差があった。そこで家の真ん中に洗面・トイレ・浴室を配して回遊性をもたせ、床暖房を入れることで木の感触に温もりをプラスした。

岡山さんも「今回は自分たちの常識をいい感じに覆してもらえた」という。
「浴室には窓が必要と、最初は外に面したプランを考えていたんです。でも回遊性から部屋の真ん中に設置することになって、どうしようと思っていたら、窓はいらないと言われて」。
達生さん曰く「マンションなら窓がないのが普通だから、抵抗はなかった」。さらに窓がなければ室温も均一に保たれ、防犯上も安全だ。
また達生さんのアイデアで階段の向きを変更。これは躯体状況を知るために解体したスケルトン状況で、一日だけの開催した写真展がきっかけ。
「準備で訪れたとき、光の感じをみていたら階段のあたりが暗い。階段の向きを逆にして、上がった先にある押入れを潰せばもっと光が差し込むはず」と相談。
そこで岡山さんは壁内に耐震補強を施し、既存の階段を逆向きに付け替えた。これで採光が劇的に変わり、耐震性を向上させたワンルーム空間がうまれた。

【フォトスタジオとして使用している風景】
LDKの一角に併設されたスタジオ。西向きだが2階寝室の一部をガラスにして光落とすことで柔らかな光が満ちている。撮影後に機材をしまえば、また日常がやってくる

 

シンプルだけど、毎日新しい発見がある家。
どこで過ごすよりも好きな時間が、ここにはある。

家づくりは些細なことを一つひとつ決めていく、作業の積み重ね。ささやかだけど、大切なことをいかに共有できるかで満足度は大きく変わってくる。「作風も好きだし、最初に自分たちが好きなものに囲まれて、気持よく暮らしている姿を見てもらっているから、そこは信頼していました」(達生さん)
思い返せば、ディティールに関しては細かい指定をしていない。せいぜい色を選んだぐらいなのに、不思議なほど好みのものになった。「こんなふうにつくりたいというイメージを汲んでアレンジしてくれて。今思えば。すごく楽をさせてもらったんだなと」(明菜さん)

この家で暮らしはじめてから、気がついたことも多い。たとえば毎日触れるスイッチ。位置は低く、目に入らないけど触れやすい高さに。マットな質感やカチャという押した感触がとてもよくいい。こういったものが意外と住み心地を左右する。
ほかにも洗面所には理科の実験用シンク、ラワン合板の側面を年輪に見立てた階段の取っ手、窓を開けるための窓、断面を見せたサッシ枠のシナベニヤの表情。シンプルなんだけど毎日新しい発見があり、それが心地よさにつながる。
そんな細やかな仕掛けと、前の家から連れてきた愛情を持って使われていた道具が、すっと馴染んでいる。

【キッチン】
そこにいるだけでリラックスできる場所がある。明菜さんにとっては、それがキッチンだという。
「料理しながら子どもをみていられるので、ここで過ごす時間が増えました」

 

訪れる変化も飲み込み、住まう人の風景をつくる余白。

こうして完成したのは、視線にも動線にも行き止まりがない、風通しのいい住まい。仕事と住まいはひとつ屋根の下。仕事だって生活の一部。だから、キッチンとつながる場所にスタジオがあり、ゆるやかにつながっていく。
「自分たちの色は暮らしはじめて、少しずつ生まれてくるもの。最初から徹底的につくり込んでいたら、それが入る余地がないでしょ。だからこそ余白を求めました」。天井の梁や階段の柱など、あえて手つかずの場所もある。
ちなみに今回、達生さんは自主施工にも挑戦した。洗面所のタイルは岡山さんの手を借りながら貼ったという。自由に暮らしていくなかで訪れる変化も飲み込み、住まう人の風景をつくっていく。価値観の変化に応じて、見える景色、家のあり方も変わってくる。「子どもも成長するし、毎日少しずつ変化はある。そうやって積み重ねていく時間を受け止めてくれるのが、この家が持つ懐の深さだと思うんですよね」

【ワークルーム】
玄関を入ってすぐに家族で使うワークルーム。
壁には長女が描いた絵が飾られている

Photo : こめじるし(kome-jirushi.com)
text : yoshiko machida